会長挨拶

 
2025年10月7日
第19回定期大会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

 皆さま、おはようございます。構成員ならびにご関係の皆さま、国内外のご来賓の皆さま、本日は、ご多用の中、第19回定期大会にご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

(はじめに)

 暑い、暑い、暑い夏もようやく落ち着き、山々には秋の彩りが訪れ始めています。今年の新年交歓会で、「四季の移ろいがはっきりせず、夏と冬だけの二季になってしまうのではないか」という懸念の声を紹介しましたが、秋の気配を感じることができ、内心、ホッとしております。近年の夏の厳しい暑さや冬の大雪、初夏や秋口の大雨といった極端な気象は、明らかに気候変動の影響だと分かっているものの、それに順応することでその場をやりすごしていないでしょうか。
 先日、気象庁が最高気温が40度を超える日をさす新たな名称を検討していることが明らかになりました。40度以上を観測する日が増え、危険な暑さになっていることを簡潔に伝えることが目的だそうです。35度を超えると猛暑日といいますが、40度を超えたときは何て表現するのだろうと思う人も少なからずおり、合点がいくようにも思いますが、このこと自体も私たちが環境に順応して、それを受け入れようとすることの一つの現れであるように思います。
 世界の気温上昇は、何十年も前から指摘されており、世界中で根本的な対処をしなければならないことは分かり切っていることです。それなりに努力してきたものの、努力すること以上に変化に慣れることに流されてしまっているようで、将来世代や未来の地球に対する自責の念を感じます。
 私たち労働者は、気候変動の影響を大きく受ける存在です。産業の盛衰にとどまらず、働く者の命に関わる問題です。働くことを軸とする安心社会の持続可能性と気候変動は、密接不可分の関係にあることを短い秋の訪れの中で皆様と改めて認識を共有したいと思います。

(第18期を振り返って)

 さて、本日をもって第18期の2年間の活動を終え、第19期の新たな2年の歩みをスタートいたします。そのはじめに、まずは第18期の取り組みを簡潔に振り返りたいと思います。

一つ目は、2025春季生活闘争の取り組みについてです。
 先日、4年にわたって取り組んできた「未来づくり春闘」について、有識者による評価結果が報告書として発表されました。「賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せることを目標にかかげて取り組んできたことは、一定程度、前進しており、慢性デフレのサイクルから脱却し、賃金と物価が緩やかに上昇する健全なサイクルが定着し始めている」と評価していただきました。
 しかし、その推進力は、いまだ力強さを欠き、上昇軌道に乗っていないばかりか、18期の2年間で実現した5%以上の賃上げも、必ずしもすべての人に行き渡っているわけではないとのご指摘も頂戴しました。真っ当なご指摘であり、真摯に受け止めなければなりません。だた、少なくとも停滞していた賃上げの流れを作り、しかも2年連続で5%台の賃上げ率を実現していただいたことは、すべての加盟組合、構成組織、地方連合会の皆様のご尽力にほかなりません。心より感謝申し上げたいと思います。
 わが国の経済社会を安定した巡航軌道に乗せるためには、今後、さらなる努力が必要であり、報告書においても2026春季生活闘争が「正念場」であると強く指摘されています。来年1月には、下請法から改正となった中小受託取引適正化法、いわゆる取適法も施行されますので、賃上げの肝となる中小・小規模事業所における原資の確保に向けた、適切な価格転嫁・適正取引のさらなる浸透を柱に据えて、報告書でご指摘いただいた課題に向き合いながら、次期闘争を闘って参りたいと思います。
 また、地域別最低賃金は全都道府県で1,000円を突破し、連合が掲げてきた「誰でも時給1,000円」を達成することができました。労働組合に入っていない大勢の労働者の処遇の底上げには、最低賃金の引き上げは不可欠です。ポスト1,000円時代に突入した今、連合としてすでに掲げた「一般労働者の賃金中央値の6割水準」という中期目標をめざして、取り組んで参りたいと思います。
 一方、運動面では、特に地方連合会の皆様とともに全国で統一的な機運醸成の運動を展開できたことは、賃上げの波を全国に波及させるということに大きく貢献できたものと思います。地方連合会の代表の皆様と東京駅前の街頭で賃上げを訴えたこと、その後に全員そろって記者会見に応じたことは、これまでの春季生活闘争の取り組みの中でも画期的なものでした。47都道府県で開かれた地方版政労使会議へ積極的に対応いただいたことも特徴的な取り組みでした。間もなく、2026春季生活闘争が始まりますが、次も地方連合会の皆様と一致団結した取り組みを進めて参りたいと思います。

二つ目は、働き方について触れたいと思います。
 ご承知のとおり、「働き方改革」のスタートから5年が経過しました。この5年の間に、コロナ禍の影響などもあって、職場ごとに働き方が多様化したようにも見えますが、働く者のための「働き方改革」が業種や業態、あるいは働き方にかかわらず全国の職場にあまねく定着したと言えるでしょうか。
 私たち労働組合による職場での取り組みや、法改正による後押しもあり、長時間労働の是正や、雇用形態間の不合理な格差の解消などについて、一定の効果はみられてきてはいますが、職場によって長時間労働の状況にばらつきがあるのが実情ではないでしょうか。さらには、いまだに悲惨な過労死や過労自死はなくなっておらず、「働き過ぎ」や「ハラスメント」なども横行し、心身に不調をきたしているといった悲痛な声が連合にも寄せられています。実際には、このような状態にあるにもかかわらず、一部の経済団体や政党などからは、時間外労働の上限規制そのものの緩和や、長時間労働を促進するような見直しを求める声が上がっています。劣悪な職場環境が実在するということに目を向けず、「働き方改革」に逆行する規制緩和は、断じて許してはいけません。働く者の命にかかわる問題から目を逸らしてもらっては困ります。
 連合は、長時間労働、過重労働をあらゆる職場から一掃し、豊かな生活時間を確保できる「働き方・休み方改革」の実現を、政策と運動の両面から強力に推し進めてまいります。真に働く者のための法改正に向けて、私たちの総力を結集した運動を全力で進めて参りましょう。

三つ目は、中央会費制度について触れたいと思います。
 本日、中央会費制度への移行の総仕上げとして、第4号議案に、規約改正案を上程しています。ご承認いただければ、来年1月から中央会費制度への移行が始まり、9年間の移行期間を経て2035年に完了する予定です。会費負担に関して構成組織間の公平性を確保することは、連合結成時からの課題でした。同時に、地域運動の持続可能性を確保することも必要であり、様々な場で議論が積み重ねられ、2020年から具体的な制度設計の作業を行ってきました。この間、建設的に議論に参画され、また知見を惜しみなくご提供いただいた多くの皆様に敬意を表しますとともに、深く感謝申し上げます。
 移行開始後に財政・内部統制検証委員会の第2次委員会を設置し、進捗状況や財政的な観点からの連合運動の持続可能性についても検証や提言をいただくことにしていますので、引き続き、構成組織および地方連合会の皆さまのご協力をお願いいたします。

四つ目は、国際労働運動と平和について触れたいと思います。
 戦後・被爆80年を迎えた今年の夏は、広島と長崎にITUCのトリアングル書記長をはじめとする世界の労働運動のリーダーが集まり、恒久平和と核兵器廃絶に向けて取り組んでいくことを心合わせしました。そのような中、依然として続くウクライナ、ガザ、ミャンマーなどでの惨禍を見ると、「平和と民主主義なくして労働運動なし」という先人たちの教えは不変であり、国際労働運動全体として、平和の実現と民主主義を守る取り組みが一層、不可欠であると強く感じています。
 また、私たちは、意見が違う仲間の主張にも耳を傾け、対話を通じて合意形成していくことを大切にしてきました。その意味でも、L7、L20、ILOといった社会対話の枠組みは非常に重要です。今年の3月には世界のトップリーダーの一人であるブラジルのルーラ大統領と会談する機会を得て、対話と多国間主義による国際課題へのアプローチの重要性などについて意見を交わしました。
 世界では紛争や戦争が絶えず、民主主義や多国間主義がゆらいでいます。このようなときだからこそ、私たちは平和と社会対話の重要性を再認識したいと思います。

五つ目は、政治について触れたいと思います。
 この2年間も、皆様と一緒にいくつもの選挙を戦ってきました。特に、この1年は政権を左右する大きな選挙が続きました。一つひとつの戦いにおいて、全国各地の皆様の懸命な取り組みに心から感謝申し上げます。その結果、昨年秋の第50回総選挙では、衆議院で与党が過半数割れとすることができました。2009年以来の出来事でした。2022年の参院選では与党が大勝し、そこから始まる黄金の3年間と言われていたにもかかわらずです。年が明けて、6月には、東京都議会議員選挙でも与党が大敗し、そして7月の第27回参議院議員選挙で、改選過半数のみならず、総議席数で与党の過半数割れを招きました。
 参議院選挙について、連合としては「与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセットする」という目標を一定程度達成できたことは、近年、連合の政治的な影響力や存在感の低下が囁かれる中にあって、大きな成果であったと総括しました。しかし、連合推薦候補者全員の勝利とはならなかったことは痛恨の極みであり、連合票と想定される得票数も前回から大きく減らし、過去最低となったことと合わせて、深く反省しなければなりません。
 人々の価値観が多様化する中、従来型の活動に対して違和感や忌避感を抱く組合員も増えており、いま一度、なぜ組織内候補を擁立する必要があるのか、くらしと政治がどのように結びついているのかといった基本的なことについて、組合員とあらためて心合わせをする必要に迫られているということを強く自覚しなければなりません。そもそも、「連合の政治理念」「国の基本政策に関する連合の姿勢」「連合の求める政治」「連合の政治的役割と政治活動」の4つの柱からなる「連合の政治方針」を掲げていること自体、組合員一人ひとりにまで認識されているとは言えません。ましてや、3つ目の柱である「連合の求める政治」の中に9つの項目を掲げ、その一つに「与野党が互いに政策で切磋琢磨する政治体制の確立が重要であり、そのため、政権交代可能な二大政党的体制をめざす」と明記していることなど、職場の組合役員には届いていないかもしれません。連合は、この方針に沿って、政権を担い得る政治勢力の一つになって欲しいとの期待をもって、立憲民主党と国民民主党には、協力・連携を求めてきています。
 しかし、組織の中からも、「両党の距離がますます広がり、対立が深刻化しているように見える」、「現場で支えているのに、なぜ連合の考え方や方針と違う動きをするのか」、「今の両党の関係が、結果として政権の延命に手を貸しているのではないか」という率直な意見が多数寄せられていることは事実です。連合の力の源泉は組織力です。その組織に集う現場の皆様が腹落ちしない状況は、より一層、組織力を小さくしていきます。
 連合は政党ではありませんが、これからも自ら掲げた政治方針に従って、いくつもの選挙や、政治的な局面を乗り越えていかなければなりません。組織力を最大化し、その組織以上の力を引き出すには構成員の理解・納得・共感が欠かせません。そのためにも、しっかりと組合員の皆様とのコミュニケーションを充実させつつ、先に紹介したような現場の率直な意見を政治の側にも真正面から突き付ける役割も果たしていかなければならないと考えています。そのことをいま一度、心に刻みたいと思います。

(第19期のスタートにあたり)

 さて、ここからは第19期のスタートラインに立ち、あらためて自らの足元に目を向けてみたいと思います。
 第19期の最重要課題は、組織拡大です。連合は、結成時800万人の組合員が結集していましたが、30年以上が経過した今、700万人を割りました。およそ100万人の減少です。組織化や組織拡大は、率直に言って簡単な取り組みではありません。その割に、人が離れていくことは簡単です。中間団体と呼ばれている組織は、同じような状況にあると聞いています。労働者が組合に加入する理由は明快で、組合が自分を守ってくれる、組合が環境を改善してくれる、と期待するからです。組合が自分に代わって、経営者と対峙し、言いたいことを代弁してくれる、そんな姿を頼もしく感じるからです。その期待に応えられているのか、あるいは応えられていないのか、組織率や組織人員数の低下という状況を前に、私たちは労働者から試されていると思うのです。たとえば、最近、企業や労働組合からの内部告発が目立つようになりました。本来であれば、内部告発が行われるような事象は、労働組合に相談されなければならないことだと思います。労働組合は、職場のことを何でも知っていて、職場の労働者と会社や組織の間に立つ存在でなければなりません。そうだからこそ、使用者側も労働組合に対して一目置くのです。外部に相談されるということは、組合員が労働組合を信用していないか、存在自体を認識していないということなのかもしれません。
 今から10年以上も前のことですが、Google社が「プロジェクト・アリストテレス」という大規模な社内調査を行いました。生産性の高いチームはどのような特徴を備えているのか、ということを突き止めるための調査だったそうですが、その結果から「心理的安全性」という概念が世間に知られることになりました。皆様も一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。その心理的安全性を構成する要素の中に、「話しやすさ」というものがあります。労働組合に職場のことを相談しようとしても、「相手にしてくれるだろうか」「上司ともう一度話してみてと言われてしまうのではないか」「組合も会社と通じていて、相談したことが筒抜けになっているのではないか」「そもそも、そんなことを相談してもいいのだろうか」などという不安や猜疑心が先に立ち、話しにくい組織、話しにくい組合役員になってはいないでしょうか。ここにおられる皆様も、職場での活動の中で直接、そんな指摘を受けたことがあるのではないでしょうか。自戒を込めて申し上げると、その一因は、職場での活動量が落ち、現場の労働者が組合の姿を目にする機会が減ってしまっているからではないかと推測いたします。
 職場から離れた労働組合には、当然ながら職場の声は集まらず、一部の人の活動に矮小化していきます。そして、組合役員は、組織を維持することに力を割き、より一層、多くの労働者が労働組合に関心を向けなくなります。また、職場の声が届かなくなると、聞こえてくる声だけがすべてのように錯覚し、それによって置き去りにされてしまう人たちが生まれてしまいます。
 『沈黙の奥にある声』―――。これは、先日修了したRengoアカデミー・第24回マスターコースの修了生の一人である情報労連の白山詠美子(しらやま・えみこ)さんの修了論文のタイトルです。「組合活動から距離を置く組合員が徐々に増えている」ことに危機感をもち、その問題の本質には「組合や会社などに対して不満や疑問をいだきながらも、それを言葉にすることなく『沈黙』を選ぶ組合員」が多く存在することだと指摘しました。この「沈黙する組合員」がなぜ声を出さずにいるのか、どうしたら声を上げてくれるのか、そして声を上げずに去っていくことをどうしたら防げるのか、ご自身の体験や調査などを通じて分析し、解決策をいくつか提示してくれています。詳細は別途、ご確認いただきたいと思いますが、ここにいる皆様も同じような経験をされた、あるいは今もその真っただ中で努力されているのではないでしょうか。

 組織拡大を進めていくためのアプローチはいくつかあるとは思いますが、職場の仲間から信頼され、安心して声をかけてもらえるような組織を追求していくことも重要なアプローチの一つです。労働組合に対する心理的安全性とは、まさに、第19期の運動方針案の冒頭に掲げたスローガンにある「理解・共感・参加」そのものです。そして、それは、忘れかけていたかもしれない、組合活動の原点なのです。
 また、私が常に呼びかけてきたジェンダー平等・多様性推進も、労働組合に対する心理的安全性とつながっています。一方の性が多数を占める組織には、もう一方の性が気軽に話しかけにくいということもあるでしょう。組織の中でも、多数派の中で少数派は声を上げにくいことがあります。ジェンダー平等推進計画において203050を目標に掲げて取り組んでいることは、心理的安全性が保たれた組織をめざすことであり、それは、すなわち組織拡大に通ずる道でもあるのです。
 第19期のスタートにあたり、ジェンダー平等・多様性推進を実現することと、組織拡大は別々の取り組みではなく、互いに関連し合いながら成し遂げていくものだ、ということを皆様と共有したいと思います。そして、これまで以上にそれぞれの取り組みを推進して参りましょう。

(結び)

 結びに、第18期の取り組みにご尽力いただきましたすべての皆さまに、改めて心から感謝を申し上げますとともに、今日から始まる第19期の運動を、皆様と心を一つにして精一杯、取り組んでいくことをお誓い申し上げ、私の挨拶といたします。ともに頑張りましょう!ご清聴ありがとうございました。

以上